2014年07月04日

日本の色の十二カ月

紫紅社ではさまざまな書籍を出版していますが、なかでも吉岡幸雄とよしおか工房に関する書籍は「紫紅社はこんな出版社です」という名刺のような本です。
 今夏六月にその看板作品のなかに新たな一冊『日本の色の十二カ月』が加わりました。この新刊は新しいけど古い。古代染織史家として色について多くの著作を世に出してきた吉岡の原点といえるものなのです。

 吉岡は染色を生業としていますが、大学卒業後ほどなく紫紅社を設立し、編集者として日本はもとより世界の染織品に関する書籍、雑誌を手掛けていました。編集者として世界の名品を追い続けた吉岡が、作り手として名品を目指すようになり、編集者ではなく著者として本の世界に戻ってきたのがPHP研究所から出版された『色の歴史手帖』だったのです。『日本の色の十二カ月』はこの『色の歴史手帖』に更に編集を加え、新装版として出版いたしました。
「新しいけど古い」って謎かけられたけど、なあんだ再編集かと思われた皆さん、その通りです。しかし『色の歴史手帖』を愛読され再版を願っておられた方々の気持ちに応えるべく、さらに十年先も読むに堪えるように加筆、修正を加え、新しくカラーページを追加しております。

 今回の再編集の見どころは「造り花」です。よしおか工房では毎年、京都 石清水八幡宮社へ「御花神饌」を納めています。この御花神饌は九月に行われる本祭に供えられる造花で、十二カ月のそれぞれの季節にあった草花を、植物で染めた和紙で作成したものです。先日東京 日本橋島屋にて行われた「吉岡幸雄の仕事展 日本の暦・色かたち」では実物が展示され、会場を華やかに飾っていました。花や木が染料となって、また花や木として生まれ変わった姿が美しく、ぜひご覧になっていただきたいところです。
(さらに吉岡幸雄ホームページでも展覧会の様子がご覧いただけます。)
  吉岡幸雄の仕事展「日本の暦・色かたち」 2014年5月21日(水) 〜5月26日(月)、日本橋高島屋

 その他のおすすめカラーページは、昨年の第65回正倉院展に展示された「鹿草木夾纈屏風」の技法を再現した「花樹双鳥文様」。今では絶えてしまった「夾纈」という大変に手間がかかり難しい技法を用いて作成したもので、NHK「日曜美術館」でもその再現手法を吉岡が披露していました。
また植物染めVS化学染料の対決が見られる「赤糸威鎧兜」も個人的におすすめしたいポイントです。植物が持つ色の力と古の人々の技術の高さを見せつけられる一枚です。

もし「審美眼」という眼鏡がかけられるなら、日本や四季がこういう風に見えるのかなと、折々に暮しを振り返り、読み返したくなる一冊です。紫紅社の名刺代わりの代表作ですが、名刺のようにお配りできないので、書店にて見かけられましたらどうぞご贔屓に。

紫紅社オンラインショップの
 『日本の色の十二カ月』へ





posted by 茜色 at 20:18| 京都 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 刈安 ブログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月02日

新刊『近世のシマ格子-着るものと社会』

本日は新刊『近世のシマ格子-着るものと社会』をご紹介したいと思います。

縞といえば茶の世界では「間道」として珍重され、着物では江戸のねえさんが着こなした柄としてのイメージがあり、九鬼周造が『いきの構造』の中で「いき」の代表として縦縞を選んでからそのイメージは確定したといえます。しかしこの「シマ」は室町時代では貴族が着るべきではない下賤な柄として疎まれていたという歴史があったことをご存じでしょうか。

従来の「シマ」観を覆すような刺激的な事実から始まる「シマ」の物語は、名探偵が謎を解いていくように、絵画、文書、時には俳諧まで!様々な物的証拠を元に丹念に語られていきます。そこで見えてくるのは政治、経済、そして社会環境といった実に人間臭い事情によって翻弄され発展していく「シマ」の姿。現代では「うっかりシルクのストライプのワンピースを着て行って警察に連れていかれた」なんていう政治的なドレスコードはありませんが、当時のファッション事情はかなりの部分が社会的な状況に左右されてきたことが分かります。一方でお洒落なちょいワルがファッションリーダーになるところや、芝居の主役に憧れるところ、ブランドに弱いところなど、現代にも通じる流行りすたりの事情も見受けられるのも面白いところ。誰かに話したくなるような逸話が詰まっています。

専門的な研究書ではありますが、染織に疎い、いや本当のところは全体的に無知なわたくしでも読み通すことができたのは、間口の広い観点から考察しているところ、語り口がクリスプで臨場感があるところが大きいのではないでしょうか。これは新聞記者であった著者の経歴が垣間見えるところで、特に終盤で九鬼周造にもの申すところは鋭く熱い取材記事を読んでいるような迫力がありました。

ダメと言われても隠してでも着たくなってしまう「シマ」ってなんだろう、とこの本をきっかけに興味が広がりました。着物にご興味のある方はもちろん、そうでない方も是非ご一読を。(刈安)


紫紅社オンラインショップ



posted by 茜色 at 20:09| 京都 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 刈安 ブログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月22日

桜色ではない「桜」の色とは



 今年の冬はとりわけ厳しく例年にない大雪に見舞われたこともあり、少しずつ近づく春を焦がれ待つ思いも、いつも以上のような気がします。雪深い滋賀湖北で育った筆者は、春が近づくと田んぼの土手にオオイヌノフグリ(この名前なんとかならないでしょうか)が青く小さい花をびっしりと咲かせる様子を見るのが好きでした。やがてむせかえるような菜の花の香り、肥の匂い、ひばりの声などが次々と「春だよー」と声を挙げていくのです。

 そして真打登場という形で咲き誇るのが桜。これほどまでに毎年多くの日本人をやきもきさせたり、心を躍らせたりする花はそうはないですよね。何度見てもうっとりとしみじみと日本の春は素晴らしいなぁという思いにさせてくれる花です。

 その思いは王朝時代の貴族たちも同じ。宴会をして歌を詠み、散らなければよいのにと嘆きます。そして季節を生活に取り入れることに巧みであった彼らは、桜を身にまとったのです。
 とはいっても桜模様の着物を着るのではありません。古典の教科書の挿絵でおなじみの、着物を何枚も重ねた「十二単衣」の色の重なりで桜を表現していました。その表現方法は実に巧み。「桜のほんのりと淡い紅色をあらわすには、紅花で染めるのがふさわしい。しかしあえて紅花を濃く、あるいは蘇芳で本来の桜色よりかなり濃く染める。そしてその表には蚕が糸を吐いたままの透明でシャリ感のある生絹を重ねる。すると、光が透過して下の濃い赤色はフィルターをかけたように淡い桜色にみえたのである。」(『王朝のかさね色辞典』より)とひとひねりが効いているのです。他にも山の緑や桜の葉を連想させる緑とのかさね、ヤマザクラの葉の紫がかった色を写し取った紫とのかさね、白桜を表現した白×白のかさねなど、実にさまざまな色の重なりで桜を表現していました。王朝人の桜表現の斬新さは、今では何を表しているのか不明な黄や青も使われているほどです。

 この桜のかさねは『王朝のかさね色辞典』でご覧いただけます。色見本はすべて植物染料で和紙を染めて作成しており、桜のかさねだけでも何と25種類!その他のかさねも花や季節を繊細に大胆に表現していて、王朝人の色表現の多彩さに圧倒されます。現代の洋服に取り入れると「えっ、赤のシャツにピンクのジャケットですか…」と周りの方に怖がられそうなので、封筒と便箋の組み合わせや、プレゼントの包装などに応用してみると、季節ごとに楽しみが広がりそうですね。(刈安)



 
紫紅社オンラインショップ『王朝のかさね色辞典』
posted by 茜色 at 15:07| 京都 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 刈安 ブログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月04日

きょうの奈良

先日のブログ記事で修二会についてご紹介いたしましたが、その他にもよしおか工房は奈良と深いご縁があります。薬師寺、東大寺の伎楽衣装の復元や、薬師寺花会式の造り花の奉納など、奈良の古刹、古社の伝統的な仕事に従事させていただいているのです。そんな奈良とゆかりの深い紫紅社がその魅力をたっぷりとご紹介する『きょうの奈良』を今回ご紹介したいと思います。

修学旅行や、最近では遷都1300年を記念した行事が行われた2011年に奈良に足を運ばれた方が多いことと思います。京都観光とセットで奈良市内の主要スポットを回っただけ、という経験しかない方も多いのではないでしょうか。それだけではもったいない。奈良は知れば知るほどに訪れたくなる、深い文化と魅力を秘めた都市なのです。

例えば『きょうの奈良』では三月の章の冒頭に修二会を取り上げていますが「衆目を集めるのは毎夜あがる大松明であるが、ぜひそのあとに練行衆の声明を聞いてほしい。」と書かれています。厳しく深遠な行を一心に執り行う練行衆の姿は心が洗われるような気持ちがするとのこと。知っているつもりの行事ですらほんの上澄みしか知らないことに気づかされました。

歴史的にも地理的にも深くて広くて、奈良の魅力はとても紹介しきれない!と思うのですが『きょうの奈良』は見どころをコンパクトにわかりやすくご紹介しています。大きな特徴は日めくり方式で奈良の行事を紹介しているところ。三百六十五日、日ごとに奈良で行われている寺社の行事、お祭りなどをご紹介していますので、「来週末にお休みとれたから奈良へ行ってみようかな」という場合でも、その日に行われる行事がすぐわかります。また季節ごとに楽しめる花や味の情報も満載ですのでお土産も用意できますね。

拾い読みをするだけでも気になるものがちらほら。うちの息子をこっそり送り込みたい「亥の子暴れ祭り」「すすつけ祭」、一度食べてみたい「長屋王家の食事」、お父さん帰れない「酒まつり」、なんだかよくわからないけど「一万度ワーイ」…拾い方に人間性が出てしまったような気がします。(刈安)



紫紅社オンラインショップ

ラベル: 寺社 行事 奈良
posted by 茜色 at 18:15| 京都 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 刈安 ブログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月15日

お水取りとよしおか工房のふかーい関係

 二月は逃げると言われますが春を待つ身にとって二月は長い。花より団子の私でも「あーあ早く桜が咲かないかな」と心待ちにしております。そこで春を告げる行事とよしおか工房のつながりについてのお話をひとつ。

 関西ではなじみ深い行事の一つに奈良東大寺の修二会があります。一般的にお水取りとして知られているこの行事は毎年三月に行われ、お松明から降り注ぐ火の粉を浴びると健康になる、幸せになると言い伝えがあり大勢の観光客がつめかけます。実はこの修二会に「よしおか工房」がかかわっているのです。

 お松明に先立つ二月二十三日に「花拵え」という行事があります。これは僧侶が十一面観音に捧げる椿の造花を作るものですが、その材料となる和紙をよしおか工房が納めております。
 糊こぼしと呼ばれる椿の造花は赤、白の花びらと黄のしべで作られます。黄は支子(くちなし)、赤は紅花で染められていますが、この赤が実に手間のかかる色なのです。
 一枚の和紙を染めるのに必要な紅花は約1s、それを六十枚納めるというのですから全部で60s!大量の乾燥した紅花を冷たい水の中でひたすらもみ洗いします。揉んで揉んで揉んで出てくるのは赤ではなく黄色。紅花には黄と赤の二つの色素が含まれており、まずこの不要な黄の色素を洗い流します。さらにこの作業は黄色が出尽くすまで最低五回は繰り返されます。次に絞った紅花に稲のわらから作った灰汁を注ぎ、またもや冷たい灰汁の中で揉んで絞って揉んで絞って…やっとハッとするような鮮やかな紅色が引き出されるのです。 
 冬の寒い時期に冷たい水の中でひたすら揉み洗いをするなんて辛そう、春夏に染めて冬までとっておけばいいじゃないと思ってしまうのですが、冴えた赤を引き出すためには何故か冷たい水でなくてはならないそうです。でもご安心ください。乾燥した紅花には血行促進作用があり、冷水で揉み洗いしているにも関わらず、手はほかほかしてくるのだそうです。

  工房では紅花の時期には灰汁をつくるために毎朝稲わらを焼くのですが、そのかまどをのぞいて暖をとるのも冬の楽しみだとか。ついでにお芋も焼いてみたいと思ってしまう私にはやっぱり花より団子、紅花よりお芋なのであります。(刈安)

東大寺造り花.jpg
造花作りの様子。修二会はなんと1250有余年もの間一度も絶えることなく続いているのだそうです。




紫紅社オンラインショップへ

posted by 茜色 at 09:00| 京都 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 刈安 ブログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする